「うちの子は普通だと思っていた」
──その感覚が、いちばん怖い。
アメリカのペット肥満予防協会(APOP)が毎年発表している調査があります。2022〜2023年のデータによると、米国で飼われている猫のうち約61%が過体重または肥満と判定されています。
でも、この数字よりもっと気になるデータがあります。
獣医師から「肥満または過体重」と診断された猫の飼い主のうち、約3人に1人が「うちの子は適正体重だと思っていた」と答えているんです。
診察室でも、同じことが起きます。「先生、太ってますか?」と聞かれて「はい、少し」とお伝えすると、驚かれる飼い主さんは少なくない。毎日一緒にいると、体型の変化はほんとうに見えにくくなります。
獣医学では、この「飼い主の感覚」と「医学的な実態」のズレをFat Gap(ファット・ギャップ)と呼んでいます。悪意があるわけでも、無関心なわけでもない。ただ、愛情があるぶん、見えづらくなる。それがFat Gapの正体です。
出典:Association for Pet Obesity Prevention (APOP), 2022/2023 State of U.S. Pet Obesity Report
「シニアになってから気をつければいい」
は、少し遅い。
Fat Gapは、ひとつの調査が言っているだけではありません。
米国の約130万頭の猫を対象にした大規模な疫学研究が、獣医学誌『Preventive Veterinary Medicine』に報告されています(2024/2025年)。そこで明らかになったのは、猫の過体重・肥満の割合がここ数十年で着実に増えていること、そしてその傾向が、シニアになる前──若い時期からすでに始まっていることでした。
「うちの子はまだ若いから大丈夫」「太ってきたらフードを変えればいい」。
気持ちはよくわかります。でも1〜6歳のアダルト期に体型が固まっていくことを考えると、「そのとき考えよう」では少し手遅れになってしまうことがあります。
出典:Preventive Veterinary Medicine, 2024/2025
猫の肥満の95%以上は、
「生活習慣」からきている。
愛猫が太ってきたとき、「この子は体質なのかも」「歳のせいかな」と思う飼い主さんは多いです。気になって検索すると「病気の可能性も」と出てきて、心配になることもあると思います。
ただ、獣医学的に見ると、甲状腺機能低下症やクッシング症候群など内分泌疾患が原因で肥満になる猫は、全体の5%未満です。残りの95%以上は、食事と運動量──つまり毎日の暮らし方に起因しています。
これは責める話ではなく、むしろ逆で。
置き餌は、本人が気づかないうちに少しずつ食べ過ぎる環境をつくります。炭水化物が多いフードは、肉食動物である猫の体には少しミスマッチです。室内飼育は安全のためにはもちろん大切ですが、運動量は屋外の猫と比べて大きく下がります。避妊・去勢後の代謝変化も、見落とされがちな要因です。
どれも、愛情を持って一緒に暮らしているからこそ起きることばかり。だからこそ、気づきにくい。
出典:"Obesity in cats: What's new?", Journal of Feline Medicine and Surgery / "Feline Obesity: Epidemiology, Risk Factors and Management", Veterinary Sciences 2024 / Cornell Feline Health Center
「ちょっとぽっちゃり」を、
いまの獣医学は慢性疾患と呼んでいます。
少し前まで、猫がぽっちゃりしているのは「健康でよく食べている証拠」と言われていました。日本でもそういう感覚がまだ残っているかもしれません。
でも米国では現在、獣医師のあいだで肥満は「chronic disease that shortens lifespan(寿命を縮める慢性疾患)」として扱われるのが主流になっています。人間のダイエット薬として話題のGLP-1受容体作動薬の猫への適用試験が始まっているほど、本気で向き合われている問題です。
なぜそこまで深刻かというと、肥満がほかの病気の入り口になるからです。
2型糖尿病は、標準体型の猫に比べて発症リスクが数倍高まると報告されています。変形性関節症では、「最近キャットタワーの上に行かなくなった」というのが典型的なサインです。加齢のせいだと思っていたことが、実は体重の問題だったというケースは珍しくありません。そして肝リピドーシス(脂肪肝)は猫特有の、非常に怖い合併症で、肥満の猫が数日間食べなくなるだけで急速に進行することがあります。
積み重なると取り返しのつかないことになります。
獣医師が触って確認していること、
じつは家でもできます。
「どうすれば太っているかどうか判断できますか?」と聞かれたとき、わたしたちが診察室でお伝えしているのは「触ってみてください」です。
獣医学でBCS(ボディ・コンディション・スコア)と呼ばれる肥満度の指標は、見た目ではなく体への触感とシルエットで判断します。
まず、愛猫の背中をそっと手で触れてみてください。毛と皮膚の下に、肋骨の骨のかたちがうっすら指に伝わってきますか?洗濯板のような、あの感触です。しっかり感じられれば適正体重の可能性が高く、脂肪に埋もれてほとんどわからなければ、肥満の可能性が高いです。
次に、横から見たとき、お腹のラインが後ろに向かって少し引き締まって見えるか確認してみてください。たるんで歩くたびに揺れるようなら、注意のサインです。
これは診断ではないですし、心配なときはやはり受診してほしいのですが、「気づく」という意味では、あなたの指先がいちばん正確なセンサーです。
マンチカン、メインクーン、ブリティッシュショートヘアなど、ふわふわの毛が魅力の子は特に、見た目と実態がずれやすいです。毛量があるとかなり隠れます。
「うちの子はもともと大きい」と思っている飼い主さんほど、一度手で確かめてみてほしいと思います。
「痩せた=健康」ではない。
これも、大事な話です。
食事が原因であれば、食事を変えることで改善できる可能性があります。これは希望のある話です。
ただ、ここで気をつけてほしいことがあります。カロリーを減らすだけでは、守らなければいけないものまで一緒に削れてしまいます。
極端な食事制限で筋肉量が落ちると、代謝が下がってかえって太りやすくなりますし、関節を支える力も落ちます。見た目が細くなっても、それが健康かというと、必ずしもそうではない。
獣医学的に大切にしたいのは、良質なたんぱく質でまず筋肉を守ること、そのうえで脂質と炭水化物のバランスを見直すこと、そして関節や皮膚など、毎日の活力を支える栄養を日々から補っていくこと。
「痩せさせる」ではなく「体を整える」という発想です。
具体的にユニアムがどんな考えでフードを設計しているかは、次のページでお話しします。
わたしたちが、
ねこ特化の食事を作った理由。
「もっとこういうものがあれば、猫の毎日は変わるのに」──獣医学の現場にいながら、ずっとそう思っていました。
知識があるから見えてしまう現実と、飼い主さんの愛情のあいだにある小さなズレ。そこを埋めることが、ユニアムを始めた理由のひとつです。
気づくためのきっかけと、気づいたあとに選べるものを、ちゃんと用意したい。そういう気持ちでフードを設計しています。
次のページで、わたしたちの答えをお話しします。